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「数年前に中国で核実験を頻繁にやっていたときは、いま騒いでる放射線値の10倍以上がデフォルトだったんだよ」
 そう言うと上司はなみなみ注がれたビールの大ジョッキに口をつけた。
 だいぶ桜も散ってきていて、花見をするならこれで最後だということで、上司や先輩たちと花見名目の飲み会をすることになった。
 ただ、さすがに事業所内の桜の下で飲むわけにもいかないので、桜を心にとどめてから事業所内の飲み屋に来た。
「状況を理解していない人ほど、分かったふりして騒ぐんだよね」
 自粛に関してもそうだな、とサンボルは思った。実際にその場に行った人は、大体は自粛なんて無意味だと思うはずだ。まあそうは言ってもみんなが行けるわけではないので、それを伝えるのがサンボルの仕事でもあるのだが。
「東北の野菜とかないですか?」
「無いですねえ」
「それじゃあ東北のお酒はあります?」
 東北のものを消費するというのも支援につながる、と上司はいつも言っている。仙台のお酒である浦霞の4合瓶を持ちながら、そういえばこの前に岩手に帰ったときも、妻の母親が「地震と原発とダブルパンチでほんとかわいそう」と率先して福島の野菜を買っていたな、ということを思い出していた。
「……しかし、海外での風評被害も結構ですね」
「まあ……日本人だって同じだよ。BSEがアメリカで1頭とかしか見つかってないのに輸入禁止したじゃない」
 そういえばサンボルは今でも牛肉は国産かオーストラリア産しか買っていない。それなのに東北の物が売れないからって何も言えないな、とサンボルは思った。
 批判は恨みしか生まない。いつも思っていることを再度確認した。

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 政治スクール開講のイベントが終わり、裏で休んでいたとき、その老紳士は誰かに聞かれた質問に答えていた。
 力強く、揺るぎ無い口調。
 横耳に挟んだ話は、地元有力者の誰それが今度の選挙に出る、とかそういう話。
 選挙の仕組みすら知らないサンボルにとっては、何もかも新しい言葉ばかりだった。
 何を聞いたか正直思い出せないが、ふとした拍子に、その中の一つを質問した。
 老紳士は、優しく、丁寧に教えてくれた。
 そこでまた、もうひとつ質問をする。
 きっと馬鹿らしい質問だったのだろう、そばにいた中年の男性から呆れたような目を向けられたが、その老紳士は「学ぶときにきちんと学ぶという姿勢が大事なんだよ」とその男性を制し、真剣に講義をしてくれた。
「あら、もうさっそく講義を受けていたのね」
 どのくらい経ったのか、政治スクールの代表から声をかけられた。気がついたら老紳士の講義を聴くサンボルを、みんなが見守る形になっていた。
「まだまだ聞きたいこと、あると思うけど、そろそろ撤収しないと」
「いま真剣に講義してたのに、なあ?」
 老紳士は口をあけて、かっかと笑う。
「そうね。そうだ、今度、君のために座談会を開きましょう」
「……座談会?」
 これは政治の専門用語では無いのだろう、ということくらいサンボルにも分かった。おそらくサンボルの語彙力が無いせいだ。
「うちの事務所でどうかしら」
「え?ええ、もちろんです」
 政治についての勉強会、とサンボルは認識していた。
 幾多にも分かれた川の先に何があるのか、正確に知ることはできない。それが流れが早ければ、周囲の景色を見ている暇すらない。
 すでに、そして確実にその流れを早めていた。

+++++
 以前まで、法律というものは、盗みをすると懲役何年で、人を殺めてしまうと死刑で、といったようにきちんと決まっていて、それこそ血も涙もなく裁かれていくものだと思っていた。ある意味、六法全書さえ暗記してしまえば誰でも法律家になれる。法律家というのは記憶力と根気のある集団だ、というサンボルの20年の人生での見解だった。
 まあ、少しはそういうところがあるにしても、そうではないということを教えてくれたのは、法学部に入った彼女だった。
 理系で研究者を目指していたサンボルにとって、法律というのは未知である分、興味をそそられるものの一つであったことは間違いなかった。
 それで、大学から帰っては、彼女からその日に学んだことを聞いて、それについて議論をしたりするようになった。そうしているうちに、法律が、人が居てこそ成っているのだと思うようになった。判例は、決して機械的な量刑だけではない、その人の人となりや情勢などさまざまなことを考慮して判決が決められていた。
 なんと奥深いものだろう。
 昔から、人のために働いて多くの人々を幸せにしたい、という目標を持っていたサンボルにとって、自分のための研究になりがちな理学部の勉強よりも興味が湧いた。
 しかし、だからと言って法学部になるわけにもいかないし、そもそも国語の点数がずっと悪かったサンボルにとって、お経にも見える法律書を独学で読もうなんていう気は全く起きなかった。
 そんな状況のなか、20歳になったサンボルには、もう一つ興味があるものがあった。
 それが、政治だった。
 身近でかつ、法律ではないにしても、人々の生活に直結した決まり事を制定する。同じ憲法の下での考え方なら、より生活に近い政治を学びたい、そう思うようになった。
「えー、理学部3年の……」
 こんな大勢の前で自己紹介するのは、たぶん初めてだろう。
 そして、議員やら弁護士やらどっかの社長やらに囲まれているのが、体がここに無いような気がした。
 政治に興味がある、ということで、彼女の友人経由で情報を得た政治スクール。
 一も二もなく飛び込んでみたものの、周りは一周り以上離れた大人で、それもみな地元の有力者ばかり。
 自分は全くの部外者。それに苦しさは感じたが、それでも志は高く、期待も大きい。
 少しでもそういう方々と知り合いになって、学べるだけ吸収してやろう。そう、サンボルは固く誓ったのだった。

+++++
 けたたましい携帯の音で目が覚めた。
「……むう」
 大した揺れじゃないと「また地震か」という感じで、ほとんど動じなくなったとはいえ、おそらく、東北が震源だということを思うと心配になる。
 風邪の頭痛をひきずりながら、サンボルがテレビの電源をつけると、やはり、東北での地震だった。
 ここ数日で、また増えてきた。
 とりあえず、会社に無事と、休むことをメールしておいた。
 自然の動きに対して、人はただ耐えるしかない。自然に対して嘆いたり文句を言ったって、ストレスで自分の体を蝕むだけだ。
 大丈夫。
 被災地に行ったときのことを、もう一度思い出していた。

+++++
 人生の糸は、どこで交わるか分からない。
 いや、勝手に絡まっていることもある。ほんと、勝手に。
「最近、痩せた気がするよ」
「……相対的に、ね。まだまだムキムキじゃないですか」
 相変わらず、マッチョだった。
 学生時代、マッチョの先輩なんて勝手に名前つけていた、その先輩。
 奥歯に思いっきり物が挟まった言い方をすれば、とても光栄なことに、その先輩はうちの会社に就職したのだ。
「地震のとき、そういえば大丈夫でした?」
「あのとき新幹線で福島走ってて、そしたら、ドーンって。最初、何かがぶつかったのかと思ったよ」
 なんとも珍しい被災の仕方だ。
 まあ、そういうのに出くわしてしまうのが、その先輩らしさなのだが。
「それは、なんとも大変でしたね」
 そのまま新幹線の中に6時間も居たらしい。状況も分からずに真っ暗な中、新幹線に放置されるのは何とも不安だっただろう。
 いくら筋肉があっても、さすがに電気は起こせない。
「車内放送で、お医者様はいらっしゃいますか、って流れてね」
 そのあとで「思わず手を挙げちゃったよ」と言わなくて、本当に安心した。
「ほんとに流れるんですね」
「しかも、医者が居てさ。看護婦も」
 そういえば友人の医者が飛行機とかで、お医者様いらっしゃいますか、っていうのに手を挙げるのが夢だとか言っていたが、本当にそういうことって起こり得るんだ、とサンボルは思った。
 しかし看護婦とセットだったなんて、もしかして、もしかするのか。
「いや、彼ら本当にすごいよ」
 何が、とは聞かない。サンボルが想像していたような回答は、得られないだろうし、得たくない。
 想像というのは、思い描くものなのだから。
「新幹線中でもずっと見回ってたし、避難所に行ってもずっと診察してたし、あれぞ医者だなと思ったよ」
 当たり前、とは思わない。
 いざというときにその人の本当の姿が分かるというのは、今回の震災で分かった。
 医者がすごいのではなく、その人がきっとすごかったのだろう。
 どんなときでも人のことを考える、そのくらい大きな人になりたい、とサンボルは思った。

+++++
 言葉を失った。
 それが唯一の表現だと思った。
 忽然と現れた瓦礫の山。折れた電柱。枠だけになっている家。
 テレビで観るのと実際にその場に行くのでは、準備をしていたと言っても、頭を砕かれたような衝撃があった。
 サンボルはもちろん戦争は経験がない。それでも、まるで戦争のよう、と思う、そんな光景が一面に広がっていた。
 釜石にもバリケードはなく、すんなりと街に入ることができた。
 自衛隊の車両が通り、瓦礫を撤去すると思われる特殊な車両が行き来をするなか、サンボルたちは奥まで進み、大槌町を目指す。
「……これほどとは」
 潮の臭いと何かが腐ったような臭いが辺り一面を覆っている。
 こんな絶望を感じたことは、サンボルの少ない人生のなかでは、ない。
 震える膝を叩きながら歩くと、ふと、テレビの音が聞こえてきた。
 見ると、枠だけになった家で、家族が協力して掃除をしていた。そのテレビは、つい最近やっと電気が入ったために付けられたものだったようだ。
 日本人は、強い。
 本当に、強い。
「終戦して、ここらが焼野原だった。それでも日本はここまで強く成長した。大丈夫、今度だって絶対乗り越えられるから」
 暗い顔してるのは、安全なところにいる人間だけかもしれない。
 前を向く。
 それが自分にできる最前の支援だと、サンボルは思った。

+++++
「ありますよ」
「え……本当ですか?」
 一見、無愛想に見える店主が嬉しそうにうなずいた。
 いまはどこに行っても納豆が手に入らない。そんな中、納豆オムレツを出してくれるというだけでも、この店に入って良かった、とサンボルは思った。
 もちろん、それだけではないと心でフォローも忘れない。
「しかし、なんで納豆無いんでしょうか」
「それが、どうもパックの生産のほとんどを茨城とかでやってるかららしいよ」
 たしかに、工場とかは多い。
 やはり日本の納豆産業を水戸だけで支えていたからではなかったのか。まあパックの生産をほとんど担ってるなら、あまり変わらない気もする。
 しかし、納豆を口にしたのは、地震後は初めてかもしれない。
 ここ数日、朝に納豆を食べないてないせいか、なんだかエンジンが入らない。
「え……納豆って朝食べるものなの?」
 一瞬、この先輩は何を言っているのか、と思った。
 そういえば、西の人はあまり納豆を食べないと聞いたことがある。
 あれ、先輩は関西出身だったかな、とサンボルが思っていた、そのときだった。
「納豆はデザートじゃないの?」
 そんなこと聞いたことない!
 デザート?どうすればデザートになるのだろうか。
 その場に居たほかの先輩方と一緒になって反論しようとした、まさにそのとき。
「いや、デザートじゃないでしょ、ウイスキーのつまみだよね」
 見たら、得意げな、上司。 
 もはやどっからツッコめば良いのか分からなくなってしまった。
 しどろもどろになる、場の空気。
 文化が違うとはこういうことをいうんだな、とサンボルは苦笑いしていた。

+++++
「なんか、どんどん凄くなるね、髪……」
「元に戻ってるだけですよ」
 出張先で一番歳の近い先輩に言われた。
 今週も半ば過ぎになってやっと気にされたか、とサンボルは思ったが、もしかしたらみんな敢えて触れないようにしているのかもしれない。
 それとも感覚がマヒしてしまっているのだろうか。
「じゃあ次は金髪かな」
「いや……さすがに、それはしませんよ」
 いくらなんでも社外の人に会うときだってある。
「まあ、そうか。茶髪ならいるけどね、ほら」
 会社という集団にいても、研究者は奇抜な発想が求められるし、個性が重要視される。集団からしたら異質なのかもしれない。
 だから会議とかで知らない部署の人でも、何事もなく、普通に接してくれてる。
 若干、目が泳いでいたように見えなくもなかったが。
「んー、女性は、良いんじゃないですか?」
「なんで女性は良いんだろうね」
「だって、それは……それを判断する上の人が男だから」
 それも変な話だが、往々にしてあることだな、とサンボルは思った。
 見た目なんて、良いとか悪いとか場にふさわしいとかではなく、それを見る人がどうかということだ。
 互いに良いと言ったら、夏場に水着で出社もあるかもしれない。この夏は電力不足だというし、節電もできて良いのではないだろうか。
 もっとも、男たちの仕事の能率は落ちそうだが。
「上の人が女性なら、俺らも結構自由になるかな」
「そうかもしれませんね」
 雇用の均等化。十分なようでまだ不十分なのだ。
 別にこれ以上自由に髪をいじる気もないが、そしたらどういう風にしようかな、と、前髪を触りながら考えていた。

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